◆第一章 貴さん

「川田さん。八木部長がお呼びです」
「うへっ、部長が?」
 デスクで書類を整理していた川田は、一瞬にして不穏な空気を感じた。それはこれまであまり外れたことのない第六感的感覚だった。こと八木部長に関しては、的中率は八割を超える——とりわけ「お小言」の場合は。
(そういえば、今日は仏滅だったな)
 川田は憂鬱な面持ちで八木部長の席に向かった。
 八木部長、会社の生え抜き的存在。名前の通りヤギのように白いあご鬚をちょっぴり蓄えているが、頭には一本の毛もない。若い社員たちに「自分のカミを食べたのよ」と揶揄される彼は、普段は好々爺の優しさだが、一度癇癪を起すと雷声一喝、それこそ野生のヤギのように見た目と裏腹に凶暴さを発揮するのだった。しかし、部下の面倒見はよいので評判はさほど悪くない。
「何かありましたでしょうか」
 部長のデスクの前に進み出た川田は、「気を付け」の姿勢でたどたどしく尋ねた。
「これを見ろ」八木部長はにこりともせず、川田に紙の束を差し出した。
「これは……」
「また苦情の手紙だ。今度は社長宛だぞ。よほど怨念があるとみえる。販売店について延々と十五枚に亘って恨み事が綴られておる。エコ意識も強いのか、印刷に失敗した紙やチラシの裏側を使っている」
「あの、どのような内容で」
「とにかく一度読んで、要旨をまとめてくれ。秘書部に報告せねばならん」
 川田はその手紙の一枚を読んで面食らった。膨大な文字群は一見達筆に見えるが癖字も癖字、しかも崩してあるため、文章の半分も分からない。これは本当に日本の文字なのか……そう疑いたくなるような代物なのだ。
「あの、これをいつまでにまとめれば?」
「すぐやれ。今日中だ!」
(これは、一読するだけで恐らく一時間、少なくとも二回は読んで、要約してワード入力して、今日中? そんなあ)
 川田がため息をつきつつ席にもどると、女性社員から声を掛けられた。
「川田さん。受付に苦情の申し立てで、お客様がお見えです」
「あれ? 佐藤君がいるだろ?」
「佐藤さんは、今日は研修でお休みです。川田さんお願いします」
 (何もこんな時に)川田は頭を掻きつつ、やむなく一階の応接室に向かった。
 応接室の扉を開ける。
 するとそこには、四十代中頃と思われるご婦人が、顔をしかめてソファーに座っていた。
「失礼します。お客様応対の責任者をしております、川田と申し……」
 川田の挨拶が終わらぬうちに、くだんの婦人はやおら立ち上がると、
「あなたが責任者? これどうなっているのよ!」
 瓶の底にヒビの入った化粧品の容器を、川田の鼻先に突き付けた。
(ふぇええっ!? 来たっ!)
 思わず身体がすくむ。こういう口調や態度は、何度経験しても冷や汗が出る。
「あのお、状況を詳しく教えていただけますでしょうか」
 川田が恐る恐る尋ねると、
「見てのとおりよ。ビンが割れちゃったのよ。どうしてなの、ちゃんと説明してもらいたいわ」
 女性は今にも川田に飛びかかってきそうな勢いだ。
「その、何が原因で」
「自転車の籠に入れて走っただけよ。おかしいでしょ」
「あの、バッグか何かに入れた状態だったのでしょうか」
「バッグ? ちゃんと紙袋に入れたわよ。ビンなら多少の衝撃に耐えて当然でしょ」
「は、はあ」川田は自転車の籠の中で、瓶が揺れ動く様を想像した。
「それにね、私いつもあなたの会社の化粧品を持ち歩いているのよ」
「それはご愛用ありがとうございます」
「でしょ。これから使おうって、わくわくしているときに割れたのよ。私の気持ち分かる?」
「せっかく買っていただいたのに。それは……残念でしたね」
「でしょ、 でしょ。 だから、弁償してもらえるわよね?」
「いや、その、それは、ちょっと……」
「何言ってるの、あなた。ビンが割れたって言ってるじゃないの。これから使おうって時に……だから、弁償してちょうだい!」

——ああ、なんでこうなるんかなぁ……?

 川田貴久——五十二歳。四歳年下の妻と大学生の息子二人を持つ、中肉中背(最近再び太めになってきているが)の平均的サラリーマンである。長らくの販売部門を経て、現在はお客さまサービス部で化粧品販売店の教育と苦情処理の責任者を仰せつかっている。真面目でお人よし、人とは一味違ったユニークなキャラで親しまれているが、出世という意味では恵まれず長年係長の不遇をかこっていた。それは、時に素晴らしい成果を上げるものの、持ち前の好奇心豊かな発想ゆえにしばしば上司の理解を超える言動が現れたり、或いはいわゆる「ごますり」をしないことが災いしていた。
「川田さんは仕事は一生懸命やるけど、サラリーマンは下手だよね」とは、ある後輩の川田評である。
 川田自身も以前は、無心に頑張れば結果はついてくるものと我が道を進んでいたが、さすがに最近は「サラリーマン道とは?」と考えることもしばしばだった。

   *

 十二月の半ば、川田が家に帰るとエアメールが届いていた。差出人は、カナダの友人ポール。中身はクリスマスカードと、その年の出来事をレポート風にまとめたものだった。カードのメッセージは日本語で書いてある。
「タカさん……今年の夏、サイクリング仲間で、カルガリーからイエローナイフまで行キマシタ。十八日間、自転車で走ッテ、食ベテ、飲ンデにぎやかな旅デシタ。ただ、キョリはいつもよりも長くて、ざっと二千百キロでしタ!」
 川田は手紙を読み終えると、目を閉じ、その情景を想像した。

——路傍の草々が一陣の風になびき、その傍らを五台のマウンテンバイクが一直線に駆け抜けてゆく。ヘッドギアにサングラス、各々赤・青・黄など色とりどりのシャツ。身体にフィットして一足漕ぐごとに筋肉のフォルムが隆々と動く。額からの汗がうっすらと光っている。
 カナダ縦断ツアーは始まったばかりだ。
 バンフの夏は短く、空の青はひときわ眩しい。見渡す限りの針葉樹、その向こうには純白の万年雪を頂くカスケード山。緑一帯の麓の路を滑らかに走りゆく一列のバイク達。ホイールの軋む音が風を感じさせる。
 旅の途中には雨もある。初夏とはいえ、ツンドラの雨は冷たい。坂道を湯気を上げてペダルを漕ぐ五人。荒い息遣いだが、リズムを崩さぬよう上体を維持して休まず脚を動かす。雨や急な坂道もサイクリングの一部だ。
 雨一過、山駆けの中頃。雲間から幾筋もの光が降り注ぎ、緑が一気に呼吸する。眼下に広がる湖にさざ波が起こり、無数の光が瞬く。その時ばかりはペダルの音がしばし止む。一日百キロを行く戦士たちの一時の休息だ。
 夜が来る。闇の中に点々と灯りがともる。世界中のサイクリストが集うバンフのロッジの一つに、五人が寛いでいる。温かな室内、笑い声、肉の焼ける香り。今日一日を共に駆けた仲間と味わうワインは格別だ。「乾杯!」の声が響き渡る——。

「これ、ポールからのクリスマスカードと手紙。初夏に今までにないようなサイクリングをしたって書いてある。十八日間で二千百キロだって!」
「すごいわね。あなたと同い年なのに、えらい違い」
「まあ体力が違うというか、物が違うというか。趣味の域を超えているよ」妻蓉子のストレートな言葉に、川田は苦笑いした。
「ポールの奥さんも、時々一緒に結構な距離をサイクリングするらしい。蓉子も俺と一緒にやってみるか?」
「遠慮しておくわ。日焼けしちゃうし。あなた、一人でやってね」
「冷たいなあ。そうだ、一度カナダ行こうか」
「その話、一体何回聞いたかしら」
「今度こそは、だよ。夏のカナダいいぞ」
「はいはい。楽しみにしています」
 そう言うと、蓉子はテレビのスイッチを入れ、ドラマを見始めた。
「おいおい……まったく……」
 自分の提案を全く本気にしていない妻の様子に、再び苦笑するしかなかった。
(もっとも、カナダどころか、この十年、お袋の面倒見やら息子たちの受験やらで、家族旅行もご無沙汰だしな。特に蓉子は、お袋が他界するまで、ずっと忍耐の日々。ずいぶん苦労をかけてしまった)
 二年前に亡くなった川田の母は、大変な気分屋だった。気に食わないことがあるとすぐに癇癪を起し、月に一度は大噴火をしていた。言い方も辛辣でおまけに時間が長い。一方的にがなりたてることが一時間以上続くのはしょっちゅうで、蓉子は毎回じっと嵐のような時を耐えていた。恐怖の独演会が終わってようやく母が目の前から立ち去ると、蓉子は台風後の静けさにポツリ、
「あ〜あ、やっとおさまったわ。こんなことばかり。私って、ボランティアで結婚したみたい」とぼやくのであった。
(しかし、時、遂に来たれりだ。来年の夏こそはカナダに行こう!)
 川田は棚の奥にあった一枚の写真を取り出した。
 それは、とある海辺の民宿でポールと一緒に撮った写真だった。確か二人でサイクリングツアーに行ったとき、宿のおかみさんに撮ってもらったものだったと記憶している。
 ポールは学生時代の夏、交換留学生として来日した。わずか二ヶ月の付き合いだったが、若き日の思い出は深く胸に刻み込まれて色褪せることはない。

   *

 当時、川田は大学二年生。苦心して掴み取ったキャンパスライフは、始まってみればやや拍子抜けするような物足りなさを感じるものであった。もちろんサークルなどで新たな友人との交流もあったが、どこか満たされないものを抱えたまま大学に通い続けていた。そんな時出会ったのが、カナダからやって来たポールだった。
「川田、彼がポールだ」
 四月のとある夜。高校時代からの友人に誘われて訪れた居酒屋で、川田は初めてポールと顔を合わせた。何も知らされていなかった川田は、見慣れぬ異国人との遭遇に狼狽した。
「ハ、ハロー」
「タカさん、ですネ。はじめマシテ。ポールでス」
 ポールがたどたどしくもきちんと伝わる日本語で返事をしたので、川田はますます泡を食った。
「おい、川田。ビクビクするなよ」友人は半笑いのまま川田の肩を軽く小突いた。
「お前も知ってるだろ。ウチの親父が私大の英語の教員で、昔っからホームステイの受け入れ先をやってる。で、今度の人がこのポール。カナダ人で年は二十一だ。たまたま俺たちの大学に二ヶ月滞在する。まあ仲良くやってくれ」
「あ、ああ」川田はぎこちなく頭を縦に振った。
「とにかく、滞在中にいろんな思い出を作ってもらおうと思ってるんだが、ステイ期間が短いんで日本中を観せて廻るのは無理だ。だったらできるだけ多くの人と会わせてやろうと思ってな。どうせならポールと同じキャンパスに通う人間の方がいいし」
「ソウイウ訳です。どうか、ゴジッコンに」
「ご昵懇!? どこでそんな日本語を覚えたんだい」
「このフレンドのパパでス」
「おい木村、お前のところの親父大丈夫なのか」
「タカさん、カレのパパは、セイジンクンシですよ。ダイジョウブではありません。セイジンクンシ。わかりまス?」
「おいおい、ますます不安だぞ」
「気にするな」木村は川田の背中をパンと叩き「ポールは優秀な生徒なんだ。何でも吸収する。そのうち自分でまっとうな言葉を取捨選択するようになるよ」
 聞けば、彼はカナダの大学でバイオテクノロジーの研究を専攻しており、「東亜モンスーン気候帯における固有的多年草の生態」を学ぶために日本にやってきたという。
 とにかく格好良い。背が高く、肩幅があり、手足が長い。細身でアスリートを思わせる筋肉質の偉丈夫。そのわりに頭は小さく、ゆるいカールのかかったブロンドヘアの下に黒縁眼鏡。レンズの向こうのブルーの目は優しげに澄んでいる。ポールは穏やかな性格で、口数は少なめだが社交性もあり、大学サークルのいくつかの集まりに顔を出していた。
 そんな彼の存在を、川田は当初あまり気に止めていなかった。しかし、大学近くのとある居酒屋で偶然隣同士になって一緒に食事をした時のことだ。
「タカさん。アナタはミヤマムラサキという花を知っていますカ」
「ミヤマあ? いや、アイドントノウ」ポールの突然の問いかけに、川田はドギマギしながら首を横に振った。ポールはお構いなしに続けた。
「ミヤマムラサキは、ホンシュウのミドルエリアの高山地帯にしか咲かない小さな花。ワタシは、そういう花をスタディするため、日本に来まシタ。特定の地域でしか生息できない固有の植物、日本にもたくさんあるのデス。ワタシは、世界中の固有種を調べるのが夢デス」
「こ、固有種?」
「そうデス。タカさんは、何か興味を持っているものありマスカ? いろんなことに興味を持ッテ実行するノハ、時間タップリある学生時代がチャンスでス」
 川田は困惑した。今、興味を持つものなど特になかったし、そのことは自分自身もおぼろげに「このままではいけない」と感じていた。言葉に詰まっていると、ポールは優しい目をして、
「タカさん、今のあなたは、メランコリックに見えます。ハートが沈み込んでイマセンカ?」
「いや、そんなことは……」川田はポールに自分の核心を見抜かれたような気がした。出会って間もない異国の青年に、自分の裸の内面を見透かされたように感じた。
 この時を境として、川田とポールはたびたび会うようになった。二人は構内のいたるところをほっつき歩いたが、スレンダーなイケメンのポールとずんぐりむっくりでふっくら顔の川田が並んで歩く姿は、キャンパスの可笑しくも微笑ましい風景だった。
 あっという間に時が過ぎ、いよいよポールが二週間後に帰国すると決まると、最後の思い出として自転車でツーリングの旅に出ようと、川田が提案した。ポールの趣味がサイクリングだったし、川田も自転車は嫌いではなかったのですぐに話は決まった。
「ポール、ちゃんとおれに着いてこいよ」中学からずっと野球をやってきた川田は体力には相当自信があった。自転車なんてちょろいもの。外国人といくら体格差があるといったって、スポーツごとで自分が負けるはずがない。「オテヤワラカに、お願いしマス」

「おおーい。待ってくれえ」峠の坂を立ち漕ぎして上体を左右に大きく揺らしながら、川田は情けない声をあげた。
「ミスタータカさん」五十メートルばかり先で自転車を停めたポールが川田を振り返り、微笑んで言った。
「また、オテヤワラカ、しましょうか?」
「あのなあ、ふう、ポール」川田はやっとのことでポールの傍に辿り着いた。「何回も言うけどさ、『オテヤワラカ』っていうのは、休憩って意味じゃない」
 肩で息をしながら川田は喘ぐように言った。
「もっとも、ちょっと休憩したいのはヤマヤマだが」
「でしょう、ジツにそうでショウ。じゃあ、『オテヤワラカ』しましょう」
 ポールの体力は尋常じゃない。よく考えたら、彼は山岳地帯の植物学を専攻しているので、野や山を旅して回るフィールドワークで体が鍛えられているのだ。
「ポール、君の体力には驚いた。見た目は細身なのに、なんて馬力なんだ」
「ミスタータカさん、あなたこそ」ポールは涼しげな顔をして答えた。
「重たそうなボディをしているのに、よくガンバっていまス」

 二泊三日の短いサイクリング旅行であったが、雄大な夕日を眺めながらともにツーリングし、最高の日々を過ごした。ポールは時折道々咲く花の写真を収めては、とびきりの笑顔を見せた。
 川田は海辺の民宿の二階から海を眺め、ポールと語り合ったことを思い出した。海の匂い、波の音が絶え間ない時の流れを予感させ、いつか訪れる別れの時を伝えていた。
「タカさん」ポールは細い目を光枯れゆく水平線に向けて言った。
「ボクは、日本へクサバナの研究のために来たノデスガ、タカサンに会うために来たような気がしマス」
「おおっ、うれしいこと言ってくれるね」
「トコロデ、タカサンは、大学卒業した後、なにをするヨテイですカ」
「そうだなあ」川田はちょっと考えて「今まで大学に入ることで精いっぱいだったから、その先までは特に……。ハッキリとした目標なんてないんだけど、少しずつ何かが見えてきたような気もする」
「何ガ見えてきまシタか?」
「どう言ったらいいのか」川田は少し考え「何か、人を喜ばせるようなことをしたいかな」
「それはタカさんにウッテつけデス」
「え?」
「タカさんは、背はアマリ高くないけれど、ボディががっちりしていて、カオがまんまるくて、動きがちょこまかとしていて、コミカルです。見ているダケで、人がシアワセになりマス」
「こらこら」
「スミマセン。悪気はナイです」
「だいいち、見た目の問題は、ぼくの責任じゃない」
「ウンメイ、ですカ」
「おいおい、余計に重たいだろ。とにかく、何かをして、人を楽しませたり、喜ばせたりしたいんだ」
「グタイテキには、どんなことですカ?」
「それはまだ、はっきりとは……」川田は困ったような笑いを浮かべポールを振り返った。ポールは川田の顔を見てにっこり微笑んだ。
「タカさん。どんなコトでも、何かを一生懸命やったら、カナラズ人のためになりまス。そしたら、人は嬉しくおもってくれまス。タカサンなら、誰よりも早く人を喜ばせることができル」
「どうしてだい」
「それは、タカさんのもっているムードが、なぜかワカラないけど、ひとをシアワセにするからデス」
「また見た目の話かい?」
「それもアルけど、百パーセントじゃアリマセン。説明しにくいですが、不思議なコトに、タカさんと一緒にいると、アンシンな感じがするのデス」
そう語るポールの表情はとても穏やかであった。
「ワタシみたいにガイコクから来た人間でも、タカさんといると自然にリラックスしたキモチになれマス。こうして二人きりでツーリングすることに、何のフシギも感じナイ。これ、国際的に例のナイことデス」
「アンシンな感じ、か」
「タトえて言うなら、タカさんは、花なのです」
「花?」
「ソウデス。花は何も言わないケレド、そこにあるダケで人のココロをなごやかにしてくれマス。そんなフシギナなオーラを、タカさんは出している」
そう言われて川田は妙に照れくさくなり、その丸い顔がつぶれた饅頭のようになった。
「プッ」にわかにポールが吹き出した。
「な、なんだよ」
「ホントに、オモシろいカオですね」
「まだ言うか!」
「国際的にも例がナイです」
「人を天然記念物みたいに言うな!」
「シャシン、撮ってもいいですカ」

   *

 あれから三十年もの年月が流れた。この間、年一回程度ではあるが手紙のやり取りがずっと続いている。近年はまれにメールのやりとりもあるが、英語での即答が面倒なせいか、一年に一度の振り返りという意味合いからか、相変わらず手紙が主である。会おうという話も幾度となく持ち上がったが、二人とも時間が取れず、それぞれの住む場所も遠く離れているのでなかなか実現はしなかった。
 川田はソファにかけ、写真の中で笑っているポールに呟いた。「世界中の固有種か……どこまで確認できたんだろう」



「第二章 DTAにて」に続く...